『日本医療ベンチャー協会 PHR研究会』(2019/3/25)イベントレポート

こんにちは!

皆さんは、病気になった時に行く病院は決まっているでしょうか?決まっている人が多いのではと思います。それは、普段から知っているお医者さんだから話しやすいというのはもちろん、それまで通院したデータが残っているからというのも理由の一つと考えられます。しかし、どの病院に行っても自分のそれまでの通院歴や病歴を参照することができる世界も、もうすぐそこに来ているのかもしれません。個人の医療データ、PHR(Personal Health Record)を、各病院内に留めない仕組み作りが推進されているのです。

今回は、2019年3月25日に行われた、日本医療ベンチャー協会主催の第一回PHR研究会の模様をお届けします!

この日の講演者一覧

藤田卓仙氏(慶應義塾大学イノベーション推進本部特任講師)
立石優子氏(株式会社エムティーアイ常務執行役員)
天辰次郎氏(株式会社ウィット執行役員兼 Asken Inc. COO)
湊和修氏(慶應義塾大学医学部メディカルAIセンター研究員)

開会の挨拶の後、まず登壇されたのは慶應義塾大学イノベーション推進本部の藤田 卓仙特任講師。藤田先生は東大医学部出身でありながら東大の法科大学院も卒業された異色のキャリアの持ち主であり、現在は医療政策の第一人者として活躍されています。

そもそもPHRとは、健康情報を個人単位で記録することで、本人が見られるようにしているものです。現在では健康情報は病院内のデータシステムに限局されていますが、それを個人個人による管理を可能にするというシステムです。せっかくデータが溜まっているにも関わらず、それが有効活用されないが故に、適切な医療を受けられない人たちがいる。データを個人と紐づけることで、どの病院に行っても必要な医療情報が医師に届けられるようになる。そうした医療者の思いを感じるシステムです。

藤田先生によると、PHRを考える上でのフレームワークは以下のようなもの。

  • 本人認証の仕組み
  • データ提供に向けた本人同意の仕組み
  • データの相互運用性(標準化等)
  • データをどこに置くか
  • ビジネスモデル
  • 関連法令の遵守

この中でも日本で難しいのは関連法例の遵守。そもそも日本は個人情報保護法制2000個問題(個人情報に関する法令等が約2000個あるということ!)と呼ばれるほどに個人情報の取扱ルールが乱立しています。医療情報に関しては、2018年に施行された次世代医療基盤法で、特定の業者が医療データを匿名化することで認定事業者に対しての提供を可能にするという制度設計がなされました。そもそもデータがあってもその利用を難しくする制度があったらデータの利用など夢のまた夢。まず制度上でデータの利用を容易にすることが必要だったのです。

政府は厚労省を中心にPHRの利用を推進しようとしており、データを「つくる・つなげる・ひらく」というスローガンのもとで様々な構想を打ち出しています。他国に目を向けると、すでにエストニアでは個人の医療データが国民の共通IDに紐付いているほか(余談ですがエストニアは個人番号に例えば学校の成績などありとあらゆるデータが紐づいており、国民のデータ利用への心理的障壁も非常に低い国です)、オランダでも共通IDに紐づける医療情報サービスの構築が進められています。

国がPHRを推進しようとした時に問題になるのがデータの保存場所とそこへのアクセスの方法です。データをオンラインのサーバーで一括管理するのか、あるいは個人個人が自分のデバイス(パソコンやスマホなど)で管理するのか。一括管理された場合は個人個人がどうやってそこにアクセスするのか、個人単位での管理がなされる場合はどうやってデータを公共的に利用するのか、といった論点が次々に浮かび上がります。政策設計者にはこうした論点を乗り越えることができるような制度設計が求められる、というお話でした。

 

次に登壇したのは、株式会社エムティーアイ常務執行役員の立石優子氏。株式会社エムティーアイ自体はIT企業であり、music.jpなどの配信系サービスやフィンテックなどを提供しているのですが、立石氏はその中でも女性の体調管理や妊活支援サービスのルナルナを提供するヘルスケア事業部の本部長でいらっしゃいます。

エムティーアイのヘルスケア事業は、「マイナス1歳から100歳まで」をスローガンとしており、妊娠前から更年期まで多岐にわたるサービスを提供しています。その中でもルナルナは1200万人のユーザー数を誇るサービスで、ヘルスケアサービスのデイリーアクティブユーザー数1位を獲得するなど、日本で最も使われているヘルスケアサービスです。そうしてデータが集まるからこそ信頼度の高いロジックを組むことができ(なんとそのロジックは特許を取得しています! 参照:https://www7.j-platpat.inpit.go.jp/tjk/tokujitsu/tjkt/TJKT_GM301_Detailed.action)、さらにユーザーが増えるという好循環。ロジックの精度が高いからこそ、医師が女性のヘルスレコードを閲覧することができるルナルナメディコというサービスを提供している他、順天堂大学などと共同研究も行っています。

ルナルナは、サービス設計において以下の四点を重視しているそうです。

  • ユーザーファースト
  • 利便性
  • 信頼
  • エビデンス

特に感銘を受けたのは、三番目の信頼。サービスへの信頼性を損なわないよう、自社サービスに掲載する広告について厳しい審査基準を導入しているという徹底ぶり。そうしたユーザー視点の工夫がなされているからこそ、ユーザーも安心して自分のデータを提供することができるのだと思います。

 

三番目の登壇者は、株式会社ウィット執行役員の天辰次郎氏。株式会社ウィットは、2007年からあすけんという管理栄養士による食事アドバイスの提供サービスを提供しています。国内外合わせて300万人を超えるユーザー数を有しており、喫食(食事)に関しては12億以上のレコードを有しています。ユーザーに体重の変化や主観的満足度の変化等を食事のバランスの変化とともに記録してもらうことにより、より質の高い食事アドバイスを提供することを可能にしています。

あすけんが重視しているのは、ユーザーベースの視点。ユーザーにより価値のあるサービスを提供するためにこだわっているのがエビデンスに基づいたサービスしか提供しないという点です。栄養価計算や各栄養価の基準値などは厚生労働省や文部科学省が作成した資料に基づいて作られている上、体調や体重管理の目標設定も健康的なレベルを超える数値は設定できないようになっているという徹底ぶり。ヘルスケア産業に関わるものとしての矜持を感じました。

さらに現在ウィットが取り組んでいるのが、データをウィット内に閉じ込めることなく、ほかのパートナーアプリ(Apple Health, Google Health, OMRONなど)とデータを共有することで、より幅広い角度からヘルスケアに貢献していくことを目指しています。

 

最後の登壇者は、慶應義塾大学医学部メディカルAIセンター研究員で、プロジェクトマネージャーを務める湊和修氏。湊氏はサイバーエージェントメディア局責任者を務め、その後もデータマネジメントプラットフォーム事業の責任者を務めるなど、徹底してデータ分析の道を歩んでこられた方です。

彼がAIRTRACKという、顧客の位置情報や行動履歴を記録することで適切な広告配信や来訪計画を予測するというビジネスをやっていた時に気付いたのが、データは特定の人物の目立つ部分だけでなく、その背景が誰からでも等しく取れるようにならないと効果がないということに気がついたといいます。医療データについても同様であり、診断データや電子カルテデータだけでなく、そのほかの日常生活におけるデータについてもデータを収集しない限り、効用は薄いのです。

そうした問題意識から、湊氏らはオフィスでのメンタルヘルスケアのケアを効果的に行うため、現場業務に負担をかけない形でストレスやWell-beingの程度を客観的に定量化することを目指し、実証実験のパイロット試験を行いました。具体的には、三十人を対象にデータを取理、脈拍や音声解析によってストレス状況との相関関係を確認することができたとのこと。また、PCの前で動いている人の方が動いていない人よりもストレスが低いという、これまた興味深いデータが得られたそうです。他にも、質問項目を作って回答を集めたところ、80%以上の回答率を獲得し、今後テキストマイニングを行なっていく予定とのことで、ますます有用な日常データが集まることが期待されます。

今回の湊氏の試みは、研究としてスタートしたものですが、研究をビジネスにつなげるという部分についてもまた難しさを感じているとのこと。そもそも研究は課題よりも全体にフォーカスを当て、平等なサービスを提供することに主眼がおかれる一方、事業は課題にフォーカスし、顧客別にサービスレベルを設定することによって課題を解決することを目指します。そうした相反する性質を結びつけるため、湊氏はオフィスでの生産性や創造性と幸福度との相関に注目し、オフィスにおけるWell-beingを向上させるためのサービスを提供することを目指しているとのことでした。

以上、第一回PHR研究会のレポートでした!政策的な研究対象としてのPHRから、具体的に現在行われているサービスとしてのPHR、さらにはデータの側面からみたPHRという三方向からの視点を提供し、包括的に考える機会を頂けるイベントでした。PHRで具体的に事業を考えている方、あまり知識はないけどPHRに興味があるという方、ぜひ日本医療ベンチャー協会に入会し、PHR研究会に参加してみてはいかがでしょうか?

◆◆日本医療ベンチャー協会のリンクはこちら:https://jmva.or.jp/◆◆

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ABOUTこの記事をかいた人

Medical Startup 編集長 / Aillis株式会社インターン生 東京大学法学部三年。医療分野未経験から医療機器ベンチャーのAillisにインターンとして参加。臨床研究等の薬事分野に従事。